新訳 東洋の理想  岡倉天心の美術思想

著者:岡倉覚三、古田亮

訳者:古田亮
訳註者:古田亮、芹生春菜

発行:平凡社
発行日:2022/6/24

判型:A5縦判(210×148mm)
頁数:476p
製版・印刷:スミ、プロセス4C、特色1C(特銀、特茶)、特色3C(特茶ダブル+特赤)カバーはマットニス
用紙:b7トラネクスト、嵩高書籍65クリームA、OKサンドミドル、里紙 雪、Mr.B ホワイト
製本:あじろ綴じ上製本

今回は、岡倉覚三(天心)著、古田亮氏著・訳の『新訳 東洋の理想 岡倉天心の美術思想』をご紹介いたします。
日本の歴史と文化を再認識し、「アジアは一つ」と世界に発信した岡倉天心『東洋の理想』。新訳により、その美術思想をひもときます。

カバーは濃厚な特色のこげ茶色をダブル (二度刷り)で印刷し、その地色の上に鮮烈な金赤でテキストをノセています。扉にも掲載されている原書の装丁を想起させるデザインですが、濃厚な茶色と朱赤のコントラストが非常に際立つ仕上がりになっています。

岡倉覚三(天心)は1863年生まれ、思想家、文人として、東京美術学校(現・東京藝術大学の前身)の設立に大きく貢献し、のち日本美術院を創設しました。近代日本における美術史学研究の開拓者で、英文による著作での美術史家、美術評論家としての活動、美術家の養成、明治以降における日本美術概念の成立に寄与。

岡倉の英文著作『東洋の理想』は、1903年ロンドンのジョン・マレー書店から上梓された、日本美術史論であり「アジアは一つである。」の書き出しで有名です。戦時中は軍部により、大東亜共栄主義のスローガンとして、岡倉の著書の本意とは乖離した用い方をされてしまいました。

本書では、『東洋の理想』を通し、人類が未曽有のコロナ禍を経験し、世界中のあらゆる立場の人々がグローバルとローカルの問題、国家間や人種間、地域間の軋轢が絶え間ないものであると知らされる現在において、異なる二つのものの対立という現実に対する思考方法について考察しています。

第一部は『東洋の理想』の新訳に、できる限りの註釈がつけられており、第二部では『東洋の理想』から今何が読み取れるのかについて、吉田氏の見解が述べられています。

吉田氏によれば、「アジアは一つである。」の隠れテーマとは、ヒマラヤ山脈で分かたれた、中国における儒教的な社会秩序と、インドに興ったヴェーダ哲学を基礎とする精神主義的世界の、二つの異なる世界観がどのように誕生、生成し、互いに関係しあってきたかを語ろうとする岡倉の意図があったそうです。

『東洋の理想』は、これまで何度か訳本が出版されてきましたが、今回の新訳は、現代の私たちにも非常に平易で分かりやすい文章で訳されています。「美術思想とは、美とは何かを問いながら、それが歴史的、地理的、社会的にどのようなものであるか、どうあらねばならないかについて思索する行為ということ」を示してくれます。

岡倉覚三(天心)の美術思想に触れ、われわれの文化、芸術について新たな視点で見つめなおすことができます。ぜひご一読ください。

装丁:美柑和俊
DTP:ダイワコムズ、BASE
地図製作:丸山図芸社
撮影:逢坂聡