増補『罪と罰』ノート

著者:亀山郁夫

装幀:中垣信夫

発行:平凡社
発行日:2023/5/10

判型:B6縦変型判(160×110mm)
頁数:336p
製版・印刷:スミ、プロセス4C、特色1C(グレー)、特色1C(蛍光特橙)+スミ、カバーはマットPP加工
用紙:HL用紙(オペラクリームHO)、雷鳥コートN、ヴァル
製本:あじろ綴じ並製本

どうも、営業部の大関です。

今回は亀山郁夫著「増補『罪と罰』ノート」を紹介させていただきます。

亀山郁夫氏は、日本の文学研究者であり、ロシア文学を専門としているお方。

ラスコーリニコフを導いた「神の意志」とは何か? 繰り返される死のモチーフの正体とは? ドストエフスキー研究の第一人者が会話や情景描写を読み解き、『罪と罰』の謎に迫る。

ー平凡社ホームページ紹介文より

 

本書は平凡社の『ノート』シリーズの一冊でありまして、フョードル・ドストエフスキーの名作小説で代表作の『罪と罰』を解説した書籍です。

『罪と罰』は、孤独で貧しいが「選ばれた非凡人」であると思っている青年ラスコーリニコフが「選ばれし人間は世の中の発展のために現状の道徳を踏み外すことが許されている」という傲慢で危険な思想から罪を犯すわけだが、意図しなかったことまでが起こってしまい。。。

それからというもの、高熱にうなされたかの如く罪の意識の中をもがき苦しみ、さまよう。
そして、ある一人の女性の「生き方」と出会うことで、彼が「選ばれた非凡人」ではなかったことと罰を受け入れていく、といった内容である。

事件を厳しく追及する予審判事ポルフィーリーという登場人物がいるのだが、彼とラスコーリニコフとのやり取りは推理小説さながらで実にヒリヒリする。
刑事コロンボのキャラクターは、このポルフィーリーがモデルとかなんとか。

本書では、ラスコーリニコフが犯した罪の意味を深く掘り下げ、内面的な葛藤についても詳しく解説されている。

また、『罪と罰』の背景、『罪と罰』が扱う犯罪や罪悪感、救済や赦しについても説明がなされている。

死に支配された物語を丹念にひもとき、構成、文体など様々な角度から小説を分析することで、小説のもつ普遍的かつ哲学的なテーマをわかりやすく理解することができるので、とても面白く、その内容に大いにのめり込んでしまった。

今回の増補版として加筆された部分には、秘密好きなドストエフスキーが残した新たな謎や伏線が含まれている可能性もあるわけで、考察好きな人にはたまらない本でもある。

ま、神や信仰についても少々触れていたりするのだが、こちとら印刷屋、「神」は「紙」に「信仰」は「進行」なんぞに勝手に脳内で置換され、ページをめくっているうちに「ああ、今回もスミ文字はしっかりと表裏で濃度ムラなくきれいに印刷されているな」とその美しい仕上がりとほのかに香るインクのにおいに胸がホクホクとしてしまった。

それはさておき、ドストエフスキーの作品に興味がある人にとってはもちろん有益な一冊となることは間違いないですが、著者独自の視点と見解によってきっと多くの読者を魅了することでしょう。

ぜひ、本書を手に取ってグラスでも片手に著者が語る世界に身を置いてみてはいかがでしょうか。

(文・営業部 大関)