サテン オパール 白い錬金術 ——ジョイス・マンスール詩集

著:ジョイス・マンスール

訳:松本完治

挿画:山下陽子
造本設計:佐野裕哉

発行:エディション・イレーヌ Ēditions Irēne
発行日:2019/5/10

判型:A5縦変型判(210×126mm)
頁数:384p
製版・印刷:スミ、スミ+特色1C(特グレー)、特色1C(特銀)、ケース、表紙はマットニス
用紙:メヌエットホワイト、ヴァンヌーボV スノーホワイト、レイドプリンティング、スーパーコントラスト スーパーブラック
製本:あじろ綴じ並製本、クロス装製函、箔押し

今回ご紹介するのは、ジョイス・マンスールの詩集『サテン オパール 白い錬金術』です。

“奇怪な令嬢”、“エジプトの妖精”と呼ばれたジョイス・マンスールの代表的詩集『叫び』、『裂け目』、『猛禽』、『白い方形』から172篇を精選し一冊に閉じ込めた不朽の愛蔵版詩集。山下陽子の挿画とともに、驚異のポエジーが今、よみがえる!

シュルレアリスムを代表する美貌の女性詩人が放つ官能と死に引き裂かれた痙攣的な美とエロティシズムの詩的宇宙。待望久しい本邦初の決定版詩集。

ーエディション・イレーヌHPより

ジョイス・マンスール(1928~86)は、わが国では、アンドレ・ブルトンらのシュルレアリストに見いだされたエキゾティックな美貌の詩人というほかは、あまり知られていない存在でした。本書は本邦初の、ジョイス・マンスールの詩を本格的に紹介したものになります。

ジョイス・マンスール、婚姻前の名前ジョイス・パトリシア・アデは、イギリスのチェシャ―に中東シリアにルーツを持つユダヤ人の大資本家の家に誕生します。生後まもなくエジプトのカイロに移り住み、多感な少女時代を過ごします。15歳に母親が死去、1947年、19歳の時、最初の結婚をしますが、夫が癌に冒され死去。その結婚生活はわずか6か月でした。

愛する母と夫との死による別れという悲劇が、狂おしいばかりの愛と死に取りつかれた彼女の詩を生み出す原動力となりました。「私にとって、詩とは慰籍であり、私個人の悪魔祓いの手段だったのです」と彼女は語っています。

1949年、ジョイスはサミール・マンスールと再婚、最初の結婚の傷心から回復し、特権的な社交階級に属する満ち足りて穏やかな暮らしを手に入れます。1950年代初頭、ジョルジュ・エナンとの出会いにより、シュルレアリスムに共感をおぼえ、自身をシュルレアリストの詩人であると自認するようになっていきます。

1953年、25歳の時、処女詩集『叫び』がフランスで出版されますが、その内容は、健康的で朗らかな良家の子女の彼女が書いたとは思えないような、退廃的で倒錯的、淫靡でグロテスクな内容で、当時のパリでセンセーションを巻き起こします。彼女の詩を読んだアンドレ・ブルトンは、絶賛の手紙を送り、それが彼らの長い友情の始まりとなりました。

震える私の乳房に触れる
あなたの手の 盲(めし)いた たくらみ
麻痺するようなあなたの舌の ゆっくりとした動き
私のパセティックな耳の中で
私の美のすべてが あなたの虚ろな瞳の中に呑み込まれ
私の脳を食らうあなたのはらわたで死んでゆく
これで私は奇怪な令嬢となっていくのだ。

—本文 14ページ「震える私の乳房に触れる」……より

良き妻、良き母として幸せな生活を送りながら、そのうちに秘めた暴力的なエロティシズムを滾らせた詩を生み出し続けたジョイス・マンスール。その原始的、退廃的で、エロスとタナトスに満ち満ちた彼女の詩と、巻末の松本完治氏による解説をお読みいただければ、彼女のミステリアスな素顔を垣間見ることができるのではないでしょうか。

今回ご紹介した特装版は在庫僅少となっているようですが、通常版も白いケース入りの美しい装丁です。繊細で幻想的な山下陽子氏の挿画、佐野裕哉氏の造本も素晴らしい、生涯大事に読み返したい詩集です。ぜひご覧ください。

ジョイス・マンスール詩集特装版・残部僅少

本年12月20日に完成しました限定35部特装版は、読者の皆様の好評を得て、すでにわずか2部を残すのみとなりました! お求めの方は、お早めのご注文をお願いいたします。 ●このたびの特装版は、大きめの共蓋式箱に、函入り特装本と挿画のオリジナル・プリント一葉入りのフォリオを収蔵した、二重函設定となっています。 …