雲は美しいか 和歌と追想の力学

著:渡部泰明

装丁:中山銀士
DTP:中山デザイン事務所(金子暁仁)

発行:平凡社
発行日:2023/3/24

判型:A5縦判(210×148mm)
頁数:100p
製版・印刷:スミ、プロセス4C、特色1C(特茶)、カバーはグロスPP加工
用紙:オペラクリームマックス、オーロラコート、OKエルカード+
製本:あじろ綴じ上製本

今回は、渡部泰明氏著『雲は美しいか 和歌と追想の力学』をご紹介いたします。

万葉集以来、膨大な和歌に詠みこまれてきた「雲」。とりわけ別れにかかわって、雲のモチーフは多様な美意識を堆積させ、漢文学の伝統とも相まって、生成し、享受される情調の群体を成長させてきました。そしてまた、追想されるその母体が新たな作品を生み出します。和歌の、古典の、力動をさぐりあてる、雲の和歌史。

例えば、平安時代に注目してみましょう。雲をめぐる形象は、平安時代にもあまたの文献に登場します。

『百人一首』の僧正遍昭(へんじょう)の歌としてよく知られている和歌。

「天(あま)つ風 雲の通ひ路(かよいぢ)吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ」
(大空の雲よ、雲の通路を吹き閉ざしておくれ。少女たちの姿を少しの間でもここに留めておきたいから)

これは神に舞を献上する五節会(ごせちえ)の舞姫たちのことを詠んだ歌ですが、ここでの「雲」は天皇の住まう清涼殿殿上の間そのものであり、雲は神のいる天上世界へと思いを馳せさせるものであるとともに、今ここにいる天皇の空間でもあります。つまり、雲こそ地上と天上の「通ひ路」そのものであるということです。

また美意識を誇る古典、清少納言の『枕草子』の「雲は」の章段や、紫式部の『源氏物語』の葵巻など、日本人に馴染み深い古典も例にとり、さまざまな「雲」の表現が紹介されています。

古来の言葉の中で、雲は追想とともに輝いていました。本書で、雲は美しいのか、雲と美しいこととはどのような関係にあるのか、という問いに応えようとする過程で、たくさんの和歌や古典を例に取りながら明らかになっていきます。そして、古典を読むことにはどのような意味があるのか…という疑問に答えることにもつながります。和歌をはじめとした古典の雲海を遊泳しながら、合わせて考えていく試みがなされています。ぜひご一読ください。