2023年11月20日刊行予定、銅版画作家として活動する製版課チームのスタッフ吉澤美樹の作品集「tiny story」。今回は2回目の制作工程レポートをお届けします。

吉澤の作品は雁皮紙という薄い和紙に銅版で刷られており、一つ一つの物語が蛇腹折りの手製本で紡がれています。「tiny story」はこれまでに吉澤が制作した4つの作品を一冊の本に纏めたものになります。(前回の記事はこちら)

「tiny story」は2023年11月23日、東京現代美術館で開催されるTOKYO ART BOOK FAIR 2023にて東京印書館のブースで販売予定。今回は一回目の本機校正の様子について吉澤本人がレポートしていきます。


今回は画像の調整と一回目の本機校正の様子について書いてみたいと思います。まずは、原本をそのままスキャンした画像では印刷に適さないため、予め使用する紙やインキにあわせて画像の調整を行います。

原本には色鉛筆による淡く鮮やかな彩色が施されています。これはCMYK4色での再現が難しいため、当初はシアン、マゼンタ、イエローのインキを100%蛍光インキに置き換えて印刷することを想定していました。そして、使用する印刷機は紫外線を照射させて即時にインキを硬化させるUVオフセット印刷機です。

通常、蛍光インキを使用する場合はUVオフセットではなく、時間をかけてインキを乾燥させる油性オフセット印刷機を使用します。油性の場合、用紙に付着したインキはゆっくりと紙の中に浸透していきながら時間をかけて用紙表面に馴染んでいきます。そのため、インキの層はより平になります。すると、光があまり拡散されずに反射されるため、重ねて刷られた蛍光インキの各色は人間の目に届きやすくなるのです。

今回は紙や判型の都合もありUVオフセット印刷機を使用することになりましたが、UVではインキが紙に付着して平になる前に凸凹の状態で固まってしまうため、光の乱反射により、下に刷られた色が油性と比較すると人間の目に届きにくくなります。

このような制約もあり、UVオフセット印刷で蛍光インキを使用する場合は実際の刷り色を予想して版を作るのがとても難しくなるのですが、色々検討した結果、今回はあらかじめM版(マゼンタ)を減らした画像を用意することにしました。

印刷はK(スミ)、C(蛍光シアン)、M(蛍光マゼンタ)、Y(蛍光イエロー)の順で刷られます。UV印刷では先に刷られる下の色が見えにくくなるとはいっても、最後に刷られる蛍光イエローはあまり色としては強くありません。そのため、先に刷られるM版(蛍光マゼンタ)が強く出過ぎないように画像調整を行いました。

そして本機校正当日です。まずは表紙をデータ通りに刷っていきます。やはりインキが鮮やかな分、もう少し調整が必要そうでした。そして上から箔押しが刷られると、どのように見えるかは後日の確認になります。

そして本文の印刷です。ここで問題が発生しました。想像以上にインキが鮮やかだった事と、M版を抜きすぎてしまったため原画の色と離れてしまったのです。解決策として、一般的に使われるプロセスインキを蛍光インキに3割混ぜ、M版とY版にボリュームをつけて刷り直してみることにしました。

右がOKシート(蛍光インキにプロセスインキを30%混入)

すると、当初より原画の色に近づけることができました。プロセスインキを蛍光インキに混ぜることで、原本の銅版で刷られた濁りと色鉛筆で彩色された部分の鮮やかさが再現されました。

こうして刷られた校正紙を元に、次の校正ではさらに部分修正を施し、より原画の色味に近づけて刷れるように調整を行います。次回は2回目の本機校正の様子も紹介していきたいと思いますので、ぜひご一読ください。(記事の続きはこちら

製版課 吉澤美樹
(2023/10/10)

吉澤美樹作品集「tiny story」刊行のお知らせ –

「tiny story」は2023年11月23日、東京現代美術館で開催されるTOKYO ART BOOK FAIR 2023東京印書館のブースで販売予定。本の完成に至るまでの制作過程を吉澤自身が複数回にわたってレポートしていきます。