色の見え方に男女差はある?

少し余談になります。色って、例えば皆さん全員が写真家になったとして、同じ物を写真に撮って頂いたとしても、表現したいものは一様に違うと思うんです。

どうでしょう。皆さん違いますよね。

その違いというのが、環境や育った地域、北海道、九州とか沖縄とか、あるいは海外とか。太陽の光線、緯度によって光線の角度が違いますから。同じものが全然違って見える。自然環境だとか、家の中の照明の具合だとか、あるいは親御さんが絵が好きだった、写真が好きだったからとか、様々な環境要因が好き好きには反映するでしょう。

男性と女性ホルモンの違いもどうやら関係するらしいです、私は学者じゃありませんが。男はどうしても、寒色系。男性ホルモンはセロトニンといいますが、青だとか紺とかを好む。わたしも男性なんですが、前期の授業では、ピンクのズボンを履いてきました。個人的にはどちらかというと女性っぽい色が好きなんですが、一般的に男性はセロトニンというホルモンの作用によって寒色系を好む傾向にあるようです。

これは冷静とか沈着とか、そういうことを感じさせるから。男なんてかわいそうなもんですよ。人に見て欲しいから、というのは異性ですよ。俺は冷静だろう、沈着だろうという風に見て欲しいという願望の元にそういう色を好んでいる。いつも女性を意識している。小さい頃から、男だから泣いちゃいけない。お兄ちゃんだから弟面倒見ろとか。

ところが女性はですね、女性ホルモンはエストロゲンと言いますね。暖色系、ピンクだとかそういうイメージ、ウォーム系の色がお好きらしい。若々しさを保ちたいとか、愛情深いとか、幸運だとかを表す色を好む傾向があるらしいです。

男女によっても、色の見え方や好みが変わる。あと、これは最近わたしにとって残念なことなんですけど、日本だと、登山が好きな中高年の方が多いと思うんですよ。おじいちゃんおばあちゃん、特におじいちゃん。理由がお分かりの方はいらっしゃいますか?

わたしなんか切実ですよ。職務ですから。

「体力づくりのためとか?」

それもあると思います。ただ、わたしの場合、色を見ることが仕事ですから、もっと切実な問題があるんです。

例えば皮膚は日焼けするんですが、網膜も日焼けするんです。

網膜が日焼けすると、寒色系、グリーンとかブルーとかの色が見えにくくなくなってくる。わたしも63歳で立派なおじいちゃんですから。「立派な」だなんて偉そうですね。立派におじいちゃんになりました。

気づかないうちに、寒色系のブルーとかグリーンが若い頃より濁って見えるようになるらしいですね(笑)。統計的に。だから綺麗な、鮮やかな色を見たくて山に登るらしい。そういう傾向があるようです。

紙媒体の意義について

さて、ここからが本題です。

オフセット印刷の意義ってなんでしょう。印刷の意義。身近なところでは、最近は紙の新聞もますます読まれなくなっています。ネットのニュースだけで情報を得ている方も増えていると思います。

電子媒体と比べた紙媒体の意義ってなんでしょう。ちょっと考えてみましょう。

ここで、ヒント。例えば、皆さんが写真家になって自分の写真展をやるとすると、ディスプレイだけで完結させるのか、紙媒体を使うのか。どちらでやると思いますか?

「自分だったらディスプレイだけでやりますね」

紙は全く使わないと。

「はい」

では、わたしは紙媒体を使って写真展をやってみたいという方はいらっしゃいますか?

何人かいらっしゃいますね。

例えば昨今、4K・8K放送が始まっています。それでは、ご自分の目で見た色と4K8Kのディスプレイで見た色のどちらが綺麗だと思いますか。

4Kですよね。私なんかは普通のハイビジョンTVしか持っていませんけれど、電気屋さんで4Kのディスプレイを見ると、とてつもなくシャープで綺麗ですよね。

皆さん、お若いからあのくらいシャープに見えるのかもしれませんけれど、私みたいに老眼が入ってきたりすると「俺の目はこんなに色が綺麗に、シャープに見えてないんだけどな..」と思わされるんですよ。

皆さんの目には、自然界の色があの4Kのテレビみたいに綺麗にシャープに見えていますか?

見えていないですよね。

そうすると、臨場感という切り口。本物に近い、という意味では紙媒体に分がある。自分が見た色に近いという点で、臨場感とか実体感という点ではディスプレイより秀でた表現方法なんです。

そこが、わたしが捉えている印刷物の優位性です。臨場感という点において紙媒体は非常に優れています。

もう一つ、もし印刷がない時代に我々産まれていたらどうか。どうですかね。

皆さんテキストは全て手書きですよ。わたしが子供の頃、宿題で全文書き取りというのがありました。教科書を開いて頭からおしりまで。

私はサウスポーを矯正させられているものですから、字が書くのが遅いうえに下手だった。だからすごく嫌いでした。

その時代に生まれていたら、わたしなんて教育も受けられずに野放し状態だったとおもうんです。そういう点では、印刷によって遍く多くの人が教育の恩恵を受けられるようになったと言えるわけです。

話を戻しまして、臨場感とか、実体感という点を考えてみましょう。

たとえば、写真展を見に行った。Aさんという写真家は素晴らしいな..とその時感動しても、その感動は時間とともにだんだんと薄れて行きます。

そこで我々も、写真家さんもデザイナーさんも読者の方も含めて、素晴らしいと思える写真集ができたとしまして、その写真集を開いたときにはいつでもその時の感動を思い出すことができる。これが、私が考える紙媒体が持つ大きな価値の一つです。

“良い”印刷物とは何か

そこで、まずは良い写真集を作らなければならないんですが、皆さんそれぞれにこだわりがある。そのこだわりを紙に表すにはどうするか。

皆さん、全員写真をお撮りになって、なかなか、自分の思う通りの色が出せない。たまには出力すると近いものが出てくるという方もいらっしゃいましたね。

でも、読者の方に写真集を買って頂くとなると、例えば120ページあってこの写真は良いけどこれはダメという話であれば、お金を払って頂くわけにはいきません。

我々、写真家さん、デザイナーさん、そしてPD(プリンティングディレクター)含めて良いものを安定的・継続的に作りたいという強い想いがあるわけです。

例えば、皆さんがデジタルカメラのシャッターを切って、完璧なRGB画像ができたとします。ハイライトの抜けもいいし、色気もいいし、階調もいい…それを、黙っていても印刷できるかどうか。

皆さんがお撮りになるのは当然、光の3原色 RGB(レッド、グリーン、ブルーバイオレット)です。

それに対して印刷は減法混色のCMYK、こちらはシアン、マゼンタとイエローです。

これは別に、難しく考える必要もないんですけれどRGBは色を足して行くと透明になってしまいますよね。

それでは、シアン・マゼンタ・イエローは合わさると何色になってしまうと思いますか?

ピンポン、黒です。

方や色が合わされば透明であざやかになる、一方は足したら黒くなっていく。

ですので、(RGBとCMYKの)色は絶対に合わないんです。

だからと言って「色合わないですよ、勘弁してくださいよ。」と写真家さんやデザイナーさんにお伝えしたらどうか。それではお金が頂けません。

ということは、どこかでデフォルメ(強調)が必要になるんです。

皆さんカショッとシャッターを切り、RAWデータをお好きな現像方法で現像して、そのRGBデータを印刷会社に入れても、片一方は色が足されると透明に、片一方は真っ黒になるという性質の違いがありますから、絶対に最初から狙い通りの色にはなりません。必ず濁ります。

色度図というのがあります。
(※光の色を(x,y)の平面座標で表した図)

演色領域、色が表現できる領域がCMYKは(RGBに比べて)かなり狭いです。だから皆さんがお撮りになっている色ほどに、自動的には綺麗になりません。

だからと言って「すみません。これで勘弁してください。光の3原色とは違うんです」というわけにはいかない。

どうするかというと、写真の中で絶対に外してはいけない、重要なポイントをデフォルメ(強調)するわけです。その部分は我々が勝手に決めるのではなく、デザイナーさん、そして写真家さんからのご指示を頂く、あるいはコンセンサスをとった上で判断するわけです。

そのデフォルメの良し悪しが写真集の品質になります。良いデフォルメができた時は、「画像データよりいいですね」というお言葉を頂けることができます。

我々はプロだからそれを常に達成しなければいけない。

それでは、デフォルメするときに我々が何を重視しているかというと、ここで紙の話に戻ります。

例えば白い紙と黄色味がかった紙があるとします。
どちらの方が色が綺麗に見えると思いますか?

ピンポン。白い紙ですね。

ツルツルの紙とザラついた紙ではどうですか?

そうです。ツルツルの紙です。

印刷用紙の色相(白色度)と平滑度。これが、物理的な印刷物の”良さ”を左右します。これは、色がきれいに出るかどうかという点での良さです。

色がきれいに出すという点では、紙は白ければ白い方がいい、表面が滑らかであればある程良いんです。

ただし、被写体ですとか、あるいは何を意図して読者の方に伝えたいかという、そういう感性や表現の部分がかかわってくるとなると、話が変わってきます。

用紙の”物理的な良さ”は皆さんが意図している写真表現にとって良いか悪いかは別問題ということです。

例えば暖かみであったり、手触り、味わいを大事にしたいですとか。そういった場合。「この光は仄かに優しいイメージにしたい」とか..

先日、写真集の印刷を担当させて頂いた写真家のハービー・山口先生がこんなことをおっしゃいました。

「春風に包まれているような、そんな写真集にしてほしい」

さあどうするか。ここはデザイナーさんの領域、ウェイトによるところが大きいんですが、まず紙の選択というのが非常に重要になってきます。

原紙の上にクレー層があって、その上にインクが網点状に転移するわけです。例えば50%の網点だとして、表面が平らな場合は網点がシャープになります。

では、表面にざらつきがある微塗工の場合はどうか。原紙があって、その上のクレー層に凹凸がある。ここにインクが乗ってくると、インクが凹凸の谷の中に入りますから、網点がガタガタになるわけです。

デコボコした山のピークに落ちた網点と凹んだ谷部分に落ちたインクのムラでガサつきが出ます。点が薄かったり濃かったりする部分がある。このように、網点の形が崩れることによって表現としてややシャープさが無くなり柔らかさが出てくるんです。

将来皆さんが紙媒体で何かをやろうとしたときに、紙の選択に必ずお悩みになると思います。

物理的に、色をきれいにシャープに出そうとするなら紙は白ければ白いほど良いし、滑らかであればあるほど良い。

ただ、物理的な”良印刷物”と感覚的な”良印刷物”は違います。

この点を心のどこかに留めて頂き、将来皆さんが紙媒体を使った表現にかかわることになった際に、考え方の一つとして参考にして頂けたらと思います。

(終)