鷲尾和彦写真集 Station

著:鷲尾和彦

寄稿:梨木香歩
デザイン:須山悠里
翻訳:メリッサ・ジャニーニ/ダニエル・スティッフラー

発行:夕書房
発行日:2020/7/3

判型:A4縦変型判(210×210mm)
頁数:88p
製版・印刷:特色3C(スーパーブラック+特グレー+グロスニス)、特色2C(スーパーブラック+特グレー)、表紙はグロスPP加工
用紙:雷鳥マットコートZ、MTA+-FS
製本:糸かがり上製本、箔押し

今回ご紹介するのは、写真家・鷲尾和彦氏の写真集『Station』です。

「2015年9月9日、オーストリア・ウィーン西駅。欧州から日本への帰途にあった私は、空港へ向かうバスに乗り換えるために降りた駅のホームで、あふれんばかりに押し寄せる人の波に突如としてのみ込まれた」

多様な人々が行き交う駅のホームでの3時間が写し出す風景に、誰もがさまよう「難民」の時代を生きる私たちは何を見るのか。自らの新しい地図を描き出すためのレッスン。—夕書房HPより

この写真集には2015年にオーストリア西駅にいあわせた鷲尾氏が、シリア国内の内戦から逃れてきた、いわゆる「シリア難民」の人々と邂逅した3時間の光景が収められています。

長い列に並ぶ人々、幼い我が子や毛布にくるまれた赤ん坊を抱きかかえる父親、遠くを見つめる青年、地面に座り込む若者、ぎこちない笑顔の子供たち…ヨーロッパにたどり着いた彼らの表情は疲弊し、そして自分たちの将来への不安に満ちています。

家族は離れ離れにならないでいられるのか、家や仕事はどうなるのだろうか、故郷はどうなっているのだろうとか、思い悩むことは尽きないのでしょう。子供たちも親の不安が伝染して、顔をこわばらせています。彼らは、英語やドイツ語、アラビア語で書かれた貼り紙やを見つめ、次に向かうことのできる行先を求めて、ひたすら駅で待ち続けています。

そんな彼らの姿が、コロナ禍によって突如今までの暮らしを脅かされた私たちにも、切実なものとして重ね合わさるのではないでしょうか。

作家の梨木香歩さんが写真集に寄せた「1枚1枚に、人生が集約されている。そして人生はまた、1枚の写真へ収斂されていく。」という言葉にも示されているように、その写真に写る一人一人の人生に思いを馳せ、共感することができる写真集です。ぜひ皆様もこの写真集をご覧いただき、彼らに思いをお寄せください。

担当プリンティングディレクターより

髙栁 昇

今回の写真集ではフィルムカメラで撮影された作品とコンパクトデジタルカメラで撮影された作品が混在していましたが、鷲尾さんのご要望にお応えすべく、中間域の広いデジタルカメラで撮影された画像の明部側を明るく、暗部側は濃く製版することで、フィルムカメラで撮影された作品との整合性をとっています。

モノクロ写真面は通常のスミインキより濃度の高いスーパーブラックと光沢のあるグレーのダブルトーンで印刷。グレーのインキはウォームトーンのグレーを使用し、仄かに暖かみを感じられる仕上がりとなっています。