旧ソビエト連邦時代の建築・装飾が今なお残るウズベキスタンの首都、タシケントの地下鉄29駅の魅力が凝縮された一冊。「メトロタシケント」の製版・印刷を担当させて頂きました。

すばらしき地下鉄の世界
“中央アジアの乾いた大地の地下に、旧ソビエト連邦時代に誕生した中央アジア初の地下鉄がある。1点もののモザイク壁画やタイル・石、照明など、駅とは思えないほどの豪奢で凝った作りは、近年まで撮影禁止だったためにあまり知られていない。宝石箱のような全29駅の地下世界。共産圏時代からの駅建築を紹介しながら、交易都市タシケントの歴史と、ロシア・旧ソビエト連邦の関係に思いを馳せる。 ”  
〜大福書林ホームページより引用

Printing Director’s note〜撮影条件から考える色変換と色調調整について

本文中の写真はウズベキスタンの地下鉄駅構内で撮影された写真が大部分を占めており、本文/解説では、その建材、素材、色、質感についての具体的な情報も豊富に盛り込まれています。

本件の画像変換におけるポイントとしては暗い地下鉄駅構内という環境ゆえの光量不足、特にアンダーな部分の階調情報が限られていたことに尽きます。

本書の写真にはウズベキスタンの生きた都市の熱気を伝えるストリートスナップのような向きもあると感じましたが、説明的な要素が強い建築物の写真撮影においては、非常に難易度の高い撮影条件であったと察します。

光量が低い場合、CCD(イメージセンサー/撮像素子)に十分な光を与えるためにはシャッタースピードを遅くして絞りを解放し、さらにCCDのISO感度そのものを上げる必要があります。但し、絞りを開放することで被写界深度は浅くなり、ピントが合って見える範囲が狭まります。また、感度を上げることでノイズが増え、階調との区別がつきにくくなるといったリスクもあります。

上記のようなリスクを原理的に100%回避することは難しく、光量が十分ではない条件下で撮影された写真をいかに自然に明るく、あざやかに、階調豊かに印刷で表現できるか、この点を変換の際の課題といたしました。

具体的には色域の広いRGB上で暗部の階調をギリギリのところまで出し、複数の調整レイヤーを用いてグレーバランス、ホワイトバランス、明るさを調整。今回、本文には手触りが柔らかくラフな質感のb7バルキーという(*1)微塗工紙(びとこうし)が採用されていますが、CMYK変換後には用紙適性も考慮しつつBk(スミ)を中心に(*2)反対色やCMYのバランスを微調整しています。

仄かに暗い地下空間の中で一際味わい深い、旧ソビエト連邦時代の独創的な建築、装飾の魅力を印刷物からも感じ取って頂ければ幸甚の至りです。

東京印書館製版ディレクター
片山雅之 談

(*1) 微塗工紙: コート/アート紙よりも表面に塗布される塗料が少ない用紙。軽量かつ柔らかい風合いや手触りのある質感が特徴。

(*2) 反対色:色相環で反対に位置する色。微塗工紙など、表面の凹凸が強い用紙にできるだけ鮮やかに印刷する場合、レッドの中のシアン、グリーンの中のマゼンタなど、純色の反対色成分をできるだけ明るくすることで印刷による濁りを効果的に抑えられる場合がある。