ビジュアルブック「茶の本」(岡倉天心)

明治期に米国の出版社から出版され、日本、東洋の美意識や文化観を西洋に向けた説いた岡倉天心の評論「茶の本」。写真家大川裕弘氏の写真と共にビジュアルブックとして刊行。

人間にとっての美の本質について考えさせられる岡倉天心の言葉の数々を「空気を捉え、気配を撮る」写真家として名高い大川裕弘氏の写真とともにじっくりと噛み締められる、何度も読み返したくなる一冊です。

美のカリスマ、岡倉天心が世界にアピールした日本人の本当の美意識
“日本の美の心を茶道の美意識から説き起こして、世界に衝撃を与えた名著の初のビジュアルブック化!「茶の本」は、茶道の作法などを解説した書物ではなく、茶道を禅や道教、華道などとの関わりから広く捉え、日本人の美意識や文化観を欧米人に向かって説いた評論ですが、日本人にも「美の本源」「芸術の本質」「人生の本義」を教えてくれる一書でもあります。大川裕弘氏の美しい写真と共に、その世界観が味わえます。 ”  
〜PIE Internationalホームページより

Printing Director’s note〜用紙の適性を考慮した写真印刷表現について

前回、印刷事例としてご紹介させて頂いたビジュアルブック「陰翳礼讃」(谷崎潤一郎)と同じく、大川裕弘先生の写真における中間から暗部にかけての豊かな階調表現と最暗部の濃度感をいかに印刷で再現できるかが課題になりました。

用紙には柔らかな手触りとしっとりとしたグロス感(光沢感)を併せ持つ微塗工紙(グラディアCoC)が採用されています。

本書の写真面では暗部(暗い部分)の濃度感・漆黒感が一際印象的な写真が多く見られます。コート紙と比較すると表面の平滑度が低い微塗工紙の場合、印刷時に供給するインキ量を増やすことで濃度感を出すという調整をする場合が少なくありません。

ただし、インキ量の増減による印刷時の濃度調整には制約も大きく、中間〜暗部にかけてのデリケートな階調表現を損なうことなく最暗部の濃度感を際立たせるには「陰影礼讃」の時と同様、用紙適正も考慮した製版工程が非常に重要になります。

しっとりとした手触りのある紙に印刷された、大川先生の奥深い写真世界。ぜひお手に取り頂き、じっくりと味わって頂ければ幸いです。