須田一政写真集 関東風譚  /ISSEI SUDA   The Sketch of Kanto Area

写真:須田一政

発行:Akio Nagasawa Publishing
発行日:2022/4/22

判型:A5横変型判(200×210mm)
頁数:120p
製版・印刷:特色2C(特スミ+特グレー)、全面グロスニス
用紙:ニューVマット、NIラシャ くち葉
製本:糸かがり上製本、クロス装、空押し

今回は、須田一政氏の写真集『関東風譚』をご紹介いたします。

豊かになってしまったことで失くしてしまったモノ、街に暮らしつづけたことで忘れてしまったモノがある。見えなくなってしまった星に代わって夜空をうずめたネオン星は、手まねきする誘蛾灯のように怪しくきらめき、ビルの谷間に立って黒々と連なるコンクリートの峰々を仰ぎ見れば、なぜか崇高にさえ思えてくる。

繁華街のど真ん中でハイサワーを飲みながら口から火花を吹き、虚ろになったところで心の痛みを忘れさせ、マドンナを夢見る私はチョットため息まじりの東京チカチカ症候群。明日もまた笑ってしまおう、寂しいからでも楽しいからでもないけれど。「東京ってイイ街だナー」なんてつぶやきながら。

でもそんなとき、いつもどこかで風が吹いていて、それがやがて私の頭の中でも─。

-須田一政、『アサヒカメラ』1983年5月号より

「関東風譚」は1983年アサヒカメラ5月号から10月号まで6回に渡って連載されたシリーズ。前掲の須田のコメントは連載初回に寄せたもので、これから始まる連載に向けての高揚した気分が感じられる。

連載修了後、このシリーズでの写真集の刊行及び、展覧会は開催されず、今ではこれらの作品群の存在を知る者は少ないだろう。そのため、今回、連載順にすべての作品を収録。

連載時の各回には、須田によって、当時流行していた歌謡曲の曲名がサブタイトルとして付けられていたため、それを採用し、須田が構想したシリーズ全体の姿を写真集として纏めた。

ー長澤章生 Akio Nagasawa Publishing

須田一政氏は1940年東京都生まれ。62年に東京綜合写真専門学校を卒業し、67年より寺山修司が主宰する演劇実験室「天井桟敷」の専属カメラマンとなります。71年よりフリーランスの写真家として活動を開始。76年、「風姿花伝」にて日本写真協会新人賞を受賞し、脚光を浴びます。

その後、83年に写真展「物草拾遺」等により日本写真協会年度賞を受賞、97年に写真集「人間の記憶」により第16回土門拳賞など受賞多数。2013年には東京都写真美術館にて大規模な回顧展「凪の片」が開催されました。2019年死去、享年78才。

この写真集も須田氏の得意とする6×6サイズの正方形フォーマットで撮影されており、当時よく見かける風景と人々の暮らしなどを写し出しています。しかしそこにはやはり、須田氏の写真の持ち味である、日常のなかに潜む非日常感が漂っており、写真集を通して眺めていくと突然白昼夢を見たような感覚に襲われるのではないでしょうか。

「「『東京ってイイ街だナー』なんてつぶや」きつつも、「いつもどこかで風が吹いていて、それがやがて私の頭の中でも」と須田氏が語っているように、関東で撮影されたこれらの写真に写る光景や人々は、たとえ笑顔であってもどこかしら寂しさ、空虚さを内包しているようにも思えます。

こちらの写真集は、フランスのアルル・ブックアワード2022 ショートリストにノミネートされています。およそ40年の時を経て、写真集として纏められた貴重な作品です。ぜひご覧ください。

担当プリンティングディレクターより

髙栁 昇

須田氏の写真の雰囲気と用紙の印刷特性を鑑みて最適の製版、印刷となるように、特に濃いスミであるコンクスミ、光沢のあるグレーのインキを使用して、階調表現を豊かにし、暗部の漆黒感も強調いたしました。

さらにグロスニスと光沢のあるグレーの相乗効果で、撮影当時の銀塩プリントようなニュアンスを想起させるように仕上げています。

Art & Editorial Direction:Akio Nagasawa
Designer:Hiroshi Nakajima
Printing Director:Noboru Takayanagi

関東風譚 – 須田一政 | AKIO NAGASAWA

1940年東京都生まれ。62年に東京綜合写真専門学校を卒業。67年より寺山修司が主宰する演劇実験室「天井桟敷」の専属カメラマンとなる。71年よりフリーランスの写真家として活動を開始。76年、『風姿花伝』にて日本写真協会新人賞を受賞し、一躍注目を浴びる。 …