しらすどん 最勝寺 朋子(作・絵)

発行:岩崎書店
判型:A4縦変形
製本:上製
頁数:32p
用紙:ニューVマット


というわけで平成のノリについていけないままに令和に生きる昭和のYOUTUBER桝川です。

さてこのたびは岩崎書店石川編集長の一押し・小田原の期待の新人・最勝寺朋子さん著「しらすどん」のご紹介をさせていただきます。

何気なく茶碗に残した一匹のしらすから、壮大な海の、生命のファンタジーが始まるのです…(この辺のストーリーはぜひ実際にお読みください)

最勝寺さんの徹底して実物にこだわって書き込まれた絵が心を引きます。
しらすのおなかがほのかに赤いのですが、これは食物にしているカイアシ類(甲殻類の一種)がゆでられて赤くなったもの。特に目を引くのがアジが長い口吻を伸ばして稚魚を吸い込む描写、これはあまり絵本では見かけない表現です。

印刷をお手伝いするにあたり、なんと言っても、しらす1匹1匹までこだわり抜いて描かれた、細かいディテールにこだわり抜きました。また、海や光のきらめき感、そして、海や天目茶碗の青にもこだわり抜いています。浅い海、海の深み、茶碗のグッと来る濃厚な青。肌の質感にもこだわりを。

男の子が夢と現実の間でしらすになり(ネタバレ自粛)・・・なにか生命の輪廻のようなテーマも感じますね。
手塚治虫「火の鳥」鳳凰編を思い出しました。男の子がしらすなのかしらすが男の子なのか・・・荘子の「胡蝶の夢」にも通ずる哲学的なテーマでもあります。

ところでアメリカの食品業界の現実を描いた「フード・インク」って映画を見たんですが、すごかったんですよ。
鶏は特殊なエサで通常の半分の早さで育ち、自分の成長についていけなくて歩けずに地面にごろごろ転がっているのを拾い上げてはかごに放り込む。
豚は手早く一度に大量に〆るために、釣り天井みたいな部屋に追い込んで数十頭一気に圧殺する。

いや、それがだめだと言っているんじゃないですが、(自分が口にしてるものも似たようなもんでしょうから)しらすどんを読んだ後、なぜかその映画を思い出しました。
生き物は種の遺伝子を残すのが究極の目的で存在しており、そのためには他者から食べられることも織り込み済みなのですね。
むしろどんどん食べられて死ぬことが生き物の宿命なわけなのですが、工業製品のように人の都合で作られて、それを食べる人はそれがかつて生きていたことすら忘れてる・・・そんな世界は少し怖いと思いました。

最終ページの男の子とお母さんの会話のように、食べることを通して、自然を、世界を知ってみたいと思う気持ちがこれを読んだ子供たちに生まれますように・・・。