ISSEI SUDA 須田一政『物草拾遺』

編集人:Akio Nagasawa
デザイン:Hiroshi Nakajima

発行:(株)アマナエーエヌジー
発行日:2023/4/24

判型:200×210mm(装丁込み207x216mm)
頁数:84p
製版・印刷:スーパーブラック、G-100、ニス
用紙:ニューVマット
製本:上製本糸かがり、ハードカバー、クロス装丁

本日は写真家須田一政氏の写真集「物草拾遺」をご紹介いたします。

現実と非現実の間に漂う一瞬を捉えたその作品、と評される彼の作品群は、被写体として確かに”生物”が写っているのに鑑賞者は”静物”と受け取ってしまうかのような妖しい雰囲気にあふれています。

・・・いま私がやっているのは、人間の愛憎とか哀歓とかいった感情から極力遠去かって、
人間でも物体でも、なるべく無機的なモノ自体としてつかまえて表現してみたいということなのである。
あとがきより

この作品集は、1980年から2年間『日本カメラ』で連載された48点に、82年開催の写真展で発表された13点を加えた「物草拾遺」シリーズの全体像であり、著者が写真家人生のなかでまさに”拾い遺めた”作品集となっています。






ここに写っているのはまさに熱量から切り離された”モノ”のよう。


著者は街中に溢れる”眼”に強い興味をもっており、今回の作品集にも収録されています。


ハードカバー、クロス装丁と重厚感もたっぷりとあるこの一冊。あなたも視覚と触覚でひととき妖しい空間に酔いしれてみませんか?

(著 製版課:佐野)

担当プリンティングディレクターより


須田一政写真集「物草拾遺」について

著者である写真家須田一政氏は写真集には印刷上の強い拘りをお持ちでした。具体的には、写真集の印刷はボリューム感たっぷりに、暗部階調がつぶれる寸前までインキ(墨とグレイ)を盛り込むのを好みとしていました。

また、モノクロ写真集はデリケートなウオームトーンの色調で仕上げるのも好みでした。当然のことながら、この写真集「物草拾遺」も須田さんの好みに合わせた製版・印刷をしています。

本書のあとがきには「人間の愛憎とか哀感とかといった感情から極力遠去かって、人間でも物体でも、なるべく無機的なモノ自体としてつかまえて表現してみたい」と書かれています。当然のことですが、そのためには製版・印刷も主題が背景に自然に溶け込んでいることが重要であります。それと共に、読者の皆様が主題をストレイトに捉えられるような製版・印刷も重要であります。(主題を少しデフォルメします)

このある意味矛盾する関係の製版・印刷が要求され、その匙加減は実に難しいものがありました。

今回の写真原稿はすべてモノクロプリント(以下MPと記す)でした。銀塩のMPと印刷インキの濃度を比較すると、圧倒的にMPが高く、当然のことながら墨インキ一色での製版・印刷では写真集としての完成度は全く物足りないものになってしまいます。

そのため、墨一色印刷の暗部濃度不足と明部から中間濃度部分の階調不足を補うべく、Wトーン(墨×Gray)で製版・印刷設計をしております。また、好みのウオームトーンを出すため、暖色系のGrayインキを使用しています。

◎墨インキ⇒写真集用高濃度墨 Grayインキ⇒暖色系Gray
◎印刷インキの濃度不足(MPとの比較で)を補うため印刷時に墨、Grayインキともに出来るだけ盛り込む(強く印刷する)必要があります。

結果として印刷物は中間濃度から暗部濃度の階調が重く、つぶれ易くなります。そのためには⇒製版時には中間濃度部分から部濃度部分の階調を原稿(MP)より明るく強調しておきます。このような製版設計をして印刷でしっかりと盛り込む(出来るだけMP濃度に近づける)ことがポイントになります。

PD雑感
この度も大好きな須田一政氏の写真作品を拝見し、写真集を製版・印刷出来たことに心から感謝です。また、ご家族様にもお喜び頂きディレクターの仕事として冥利を感じます。読者の皆様もぜひお手に取って頂き、須田一政氏の写真の世界に存分に浸り、堪能して頂くこと願っております。

東京印書館統括プリンティングディレクター

髙栁昇

物草拾遺 – 須田一政 | AKIO NAGASAWA

この作品集は、1980年から2年間『日本カメラ』で連載された48点に、82年開催の写真展で発表された13点を加えた「物草拾遺」シリーズの全体像です。 写真の画題を考えるというのは厄介なもので、いいタイトルなぞ…