2023年11月23日から東京都現代美術館にて開催されるTOKYO ART BOOK FAIRでの販売に向け、東京印書館、製版課チームの吉澤美樹による作品集「tiny story」は校了に向けた作業が大詰めを迎えています。

前回に引き続き、今回も本機校正の様子をお伝えしていきたいと思います。
(前回の記事はこちら

※本機校正 : 本番で使用する印刷機、用紙、インキを使用して試し刷りを行うこと

この作品集の原本には通常のオフセット印刷では再現が難しい、色鉛筆で彩色した非常に鮮やかな色の部分があります。そこで、原画に色味を近づけるべく蛍光インキを使用しています。

1回目の本機校正では、蛍光インキに通常のCMYインキを30%混入することで、イメージに近い結果を得ることができました。さらに原画のイメージに近づけるべく画像の調整を行い2回目の試し刷りに臨みましたが、ここで予期せぬ方向に色が転んでしまうことに。 3度目の本機校正でようやく着地点が見えてきました。

本機校正2回目 (2023/10/23)

1回目の校正での反省点を踏まえ、主に以下3点の調整を行いました。

まず、前回の試し刷りで紫に転んでしまった暗部に Y(イエロー)版を足しました。次に、図柄を原画に近づけるために調整を行った結果、今度は原画と離れてしまった背景色の色を原画に近づけるべく、背景のY版を引いてM(マゼンタ)版を少し足しました。最後に図柄の部分修正です。特に、背景との色の差が少ない雲の部分を自然に見せるために細かい修整を行いました。


▲左:初校 右:背景が赤く転んでしまった再校

結果、背景の淡い色の読みが難しく、赤が浮いてしまいました。このまま本番を迎えるのは不安なので3度目の校正を行い、全体を満遍なく原画のイメージに近づけられるように調整を行うことになりました。

本機校正3回目 (2023/10/30)

前回の結果を受けて、背景に今まで入れていなかったC(シアン)版を1%加え、Y版も少しプラスしました。加えて、CMYの数値を変えた3種類のサンプルを空いたスペースに入れ、こちらの変化量を見極めながら微調整を行います。


▲数値の異なる背景色のサンプル

加えて、図柄がコラージュされているような原画のイメージに近づけるため、図柄にややボリュームをつけて地の色との差別化を図ることにしました。結果、背景を含めた全体のイメージが原画に近づきました。


▲背景の赤みが抑えられ、図柄がより立体的に感じられる3回目の色校正の結果

三校の結果、全体的に原画に近づけることができました。背景色のサンプルを見比べてみたところ、本番に向けて背景色からさらに1%Y版を減らせばもう問題はなさそうです。図柄は、背景と差が少ない雲の部分の赤が目立ってきましたので、M版を数%調整します。

他の絵柄も部分で調整したいところには手を加えていきますが、3回のテスト刷りを経て、いずれの画像もこれ以上大きく動かす必要はないといったところまで追い込むことができたと思います。それぞれの版の割合を1%、2%変えるだけで絵柄が大きく変わってしまうデリケートな調整は非常に難しく、校正を重ねる結果となりました。ですが、ここまで来れば、本番に向けて最終調整を行った後の結果が読めてきます。

現在、本番の印刷に向けて画像の準備を進めています。主に、これまでの校正をもとに全ての本文画像を同じ方向に合わせる修正となります。レイアウトデザインの仕上がり見本(カンプ)を出して、校正を行った画像と他の本文画像が同じ方向になっているかといった確認を行います。校正画像以外は、本機ではなくインクジェットでの確認を予定しています。そのため、本機で蛍光の混ざったインキで刷った際に、どのように刷れるのかを想像する必要があり、こちらも非常に難しい作業となります。

このように画像を調整し、後日の本番に臨む予定です。残りのページも問題なく刷れるよう、最後まで頑張ります。

製版課 吉澤美樹
(2023/10/31)

吉澤美樹作品集「tiny story」刊行のお知らせ –

「tiny story」は2023年11月23日、東京現代美術館で開催されるTOKYO ART BOOK FAIR 2023東京印書館のブースで販売予定。本の完成に至るまでの制作過程を吉澤自身が複数回にわたってレポートしていきます。