Obscure 風の記憶

発行日:2024/01/19

著者:南佐和子

発行人:片村昇一
発行所:株式会社 日本写真企画

プリンティングディレクション:髙栁昇(東京印書館)
アートディレクション:三村漢(niwanoniwa)

判型:AB横変型判(220×240mm)
頁数:112p
製版・印刷:〈表紙〉プロセススミ+マットニス ※箔押し・空押し、〈題箋・本文〉プロセス4c+マットニス
用紙:〈表紙〉グラフィーハンプF、〈題箋・本文〉OKミューズガリバーマットCOC オフホワイト
製本:糸かがり上製本

今回は、南佐和子写真集「Obscure 風の記憶」をご紹介いたします。

▲『冬の造形』(撮影地:美瑛町)

目の前で起きている事象は、とどまることを知らず常に変化している。
しかも、その変化は予想がつかずあいまいだ。
今ある風景も、明日には見られなくなってしまうかもしれない。
-南 佐和子

▲左『白鳥たち』(撮影地:屈斜路湖) 右『極寒』(撮影地:陸別町)

著者である南佐和子氏が10年間撮りためた北海道東部の写真がまとめられている本書。撮影エリアはサロマ湖から十勝南部まで広範囲にわたります。著者曰く、北海道東部の最たる魅力は、冬。氷の造形がよく見られるところに惹かれ、それが「風の記憶」というタイトルにもなっているそう。次の瞬間には見ることができなかったかもしれないというあいまいさが、その美しさをより際立てているようにも感じられます。

▲『旅立の時』(撮影地:然別湖)

2024年1月19日(金)~25日(木)には、富士フイルムフォトサロン東京にて、南佐和子写真展「Obscure ―風の記憶―」を開催。さらに、下記日程で名古屋、大阪、札幌での巡回展を予定しています。また、4月から1か月間にわたり開催される帯広展は、撮影の際にお世話になった地元の方々に今回の作品を見ていただけるようにという思いから開催を決めたとのこと。(詳細はこちら)写真集とあわせて、こちらの写真展にも是非足をお運びください。

富士フイルムフォトサロン名古屋:2024年2月16日(金)~22日(木)
富士フイルムフォトサロン大阪:2024年3月15日(金)~21日(木)
富士フイルムフォトサロン札幌:2024年4月5日(金)~10日(水)
マテックプロダクツストア2階ギャラリー(帯広):2024年4月13日(土)~5月12日(日)

▲『エピローグ』(撮影地:斜里町)

担当プリンティングディレクターより

 

この写真集の製版印刷を設計するにあたり、写真データを確認したところ、グレー色の美しさと多様性に魅了されました。二つとして同じグレー色はなく、どのグレーもしっとりと落ち着いた色調で、味わい深く自然に心に沁み込みました。写真そのものに目を転じれば、光と自然が織りなす情景の凛とした静寂感が漂います。

写真データの美しさと製販印刷の難しさは当然のことながら表裏一体であり、色は条件等色でもあります。写真データはRGB(光の3原色発色)、印刷はCMYK(色の3原色+スミ発色)であるため、厳密な意味では、写真と印刷の色は合わないのです。

この「合わない」という現実を利点に変えるためには、写真一点一点における写真家の表現意図(暗黙知)を可能な限り正確に理解し、表現のポイントをデフォルメすることが最も重要であると考えています。つまり、写真家やデザイナーとのコミュニケーションのもとに写真集を作り上げる必要があるのです。

さらに、南佐和子様の写真表現のこだわりを最大限に表現するためには、用紙の表現力も重要です。今回使用しているのは、「OKミューズガリバーマットCOC オフホワイト」。手触りが優しく風合いがあり、生成りの色相(色味)を持つ用紙です。この用紙を選択したことによって、写真の明部から中間部にかけてやや温かみが増し、一点一点の写真表現に落ち着きを感じられる印刷になっています。今回の写真集にはデザイン、製版、印刷の三位一体どころか、用紙の表現力も合わせた四位一体(?)ともいえる力が合わさっているのではないでしょうか。

読者の皆様も、各人の感受性でこの写真集に魅入っていただけると確信しております。存分に楽しんでいただけますと、P.D.冥利につきます。

東京印書館統括プリンティングディレクター

髙栁昇

Obscure 風の記憶

Obscure 風の記憶 南佐和子 2024年1月19日 定価 4,180円(税込)ISBN : 978-4-86562-178-5 220㎜×240㎜  上製本  カラー 112ページ  目の前で起きている事象は、とどまることを知らず常に変化している。 今ある風景も、明日には見られなくなってしまうかもしれない。行く末は常にあいまい(Obscure)だ。自然災害やパンデミックを経て、今生きていることの意義を考えるようになった。 冬が長い北海道の鈍い光、風が作り出す自然のフォルム。 美しさの中にひそむあいまいな存在が、大切なことを教えてくれている気がする。