アントニー・ケーンズ写真集 “CTY” 日本版

英国ロンドンの写真家アントニー・ケーンズによる写真集CTYの日本版。ヨーロッパで出版されていた作品集が大胆にアレンジされ、日本オリジナル仕様で発売。ヨーロッパ版は紙自体にメタリックな光沢を持つアクアブルーの特殊用紙が採用されているのに対し、日本版はなんとテキスト部分の背景と一部写真面に鮮烈な蛍光ピンクインキが採用されています。

さらに、ケーンズ氏の作品自体も同じ写真がポジからネガに反転されており、ヨーロッパ版とは異なる異彩を放っています。作品世界のメタリック感、そしてあたかも透過原稿に後方から光が照射されているかのような輝きを再現するべく、非常に複雑で緻密な印刷工程が求められました。

〜製版・印刷工程について、プリンティングディレクター高柳昇の解説〜

「写真面について、日本版はモノクロ写真の明暗を反転させたネガ版が使用されている。単純にモノクロ写真をネガに反転すると白黒部分が逆転し、階調的に弱い印象を与えてしまう。これでは写真集としての魅力に欠ける。今回は写真集としての完成度を高めるべく、ネガ版原稿一点一点ごとに異なる方法でスミとグレー版の網点濃度をボリュームアップしている。さらに、日本版はシルバーの用紙を用いる代わりに銀インキを使用。この方法ではスミ、グレー版と銀版を同時に印刷することが絶対条件である。そのため、銀版はポジにした。写真面のスミ・グレーと銀版の境目に不自然な白線が出ない様、ボケ足の長さに最大限の注意を必要とした。」

銀・スミ・蛍光ピンク・グレー、ニスの組み合わせで表裏合計14色もの重ね刷りが必要になる折もあり、4色印刷機では表裏2回ずつの4回通しをしています。

インキの刷り順もページにより変える必要がある為、印刷には甚大な思案が要求されました。ヨーロッパ版と異なり、日本版では特殊用紙を使用しておりませんが、スミ・グレーのダブルトーン とシルバーインキの組み合わせにより特殊紙に劣らない輝度と光沢感を実現しています。

*東京印書館玉川工場にて、刷り上がったばかりの印刷物。

本作にはケーンズ氏の作品世界と重なるように、森山大道、H.P Lovecraft, JG Ballardなどの写真家、小説家にまつわる*サイモン・ベイカー氏のエッセイが織り込まれています。

*サイモン・ベイカー/Simon Baker (フランス, ヨーロッパ写真美術館ディレクター)

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*限定750部サイン&ナンバー入り

アントニー・ケーンズ プロフィール

<サイモン・ベイカー氏による著者紹介>

1980年ロンドン生まれの写真家、アントニー・ケーンズはロンドンや東京、ロサンゼルスといった大都市の中心にあるビル群やネオンから発せられる光を使い、夜間に撮影を行う。彼が選ぶ被写体(建造物)は建築中の場合が多い。オフィスビルや高級アパートメントになるべく設計されているであろうスケルトン(鉄骨)状態の建物などである。写真は慣習的に空間、構造そして建築様式を記録するものであるという意味において彼の作品は頑なに構造的ではない。

しかしながら、彼の作品には単にその都市環境を捉える突出したアプローチ以上のものがある。ケーンズは非常に洗練された全体性を持って、アナログフィルムにおける光のエフェクトや暗室での実験的工程、そしてこの21世紀において、写真イメージに対して利用可能なあらゆる技法を高度に専門的で革新的な理解をもって受容し実践している。

ケーンズは自身の作品を数々の現代的かつ”対照的”な方法で発表している。恐ろしいほど重層的に組み立てられたアーティストブック “LDN (2010年)”, “LPT (2012年)”, “OSC (2016)”そして、銀ゼラチンをアルミニウムのシートに塗布した”LDN2 (2013年)”, “LDN3 (2014年)”。さらにはエレクトリック・インキによる実験。アマゾンKindleの端末をハックし、彼の作品を収録した “LDN EI (2015年)”、そこから抽出されたフリーズ画面の作品集, かつての銀版写真の奇妙な遠い子孫のような “TYO2 (2017年)”。

また、ケーンズは京都にある便利堂コロタイプアトリエへ滞在し、2015年にコロタイプ写真のコンペティションであるHALIBAN AWARDで最優秀賞を受賞している。”LA-LV (2016年)”は、その再現性の高い特徴を持つ写真イメージをコロタイプを通して拡張する可能性に再び直面したケーンズによる介在と解釈がなされた一連の作品群である。

ケーンズは近年、デジタルの先史時代を探求し始めている。初期のコンピューター・プログラミングに使用されていたパンチカードにプリントされた作品を組み合わせた”OSC, Osaka Station City(2016年)” 。そして、時代遅れの旧式デジタルカメラのスクリーンと装置を使iい、自身の作品を投影させるような試みが例に挙げられる。現在、ロンドン在住のケーンズはヨーロッパ、米国、そして日本で幅広く展示・出版活動を行っている。

Simon Baker, Director, Maison Européenne de la Photographie

写真展 “CTY” 〜AKIO NAGASAWA Gallery (AOYAMA)

アントニー・ケーンズ 写真展 “CTY”
AKIO NAGASAWA GALLERY (AOYAMA) にて開催中
2019年6月15日迄
営業時間|11:00-19:00 (13:00-14:00 CLOSE)
営業日|木曜・金曜・土曜(日〜水曜・祝日休廊)
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