若きアスリートへの手紙

著者:町田樹

発行:山と溪谷社
発行日:2022/4/5

判型:四六判(198×127mm)
頁数:488頁
用紙:ソリストミルキー、NTラシャ ホワイトローズ、オーロラコート
製版・印刷:スミ(本文、表紙)、プロセス4C(カバー)カバーはグロスPP加工
製本:あじろ綴じ上製本

今回は山と溪谷社様刊行、元フィギュアスケーターで現在はスポーツ科学研究者としてご活躍の町田樹さんの著書「若きアスリートへの手紙」をご紹介いたします。

スポーツ界で日々活躍するアスリートに向けて、競技人生を実り豊かにするためのさまざまな極意や哲学を提供している本書。

アスリートの競技人生は、決まって過酷なものです。ケガなどの身体的問題はもとより、競技成績の浮き沈みや極度の緊張状態を強いられる競技会でのストレスなどが原因となる精神的問題、あるいは競技引退後の人生形成で挫折を味わうセカンドキャリア問題など、挙げればキリがないほど、日々、さまざまな問題と向き合い続けなければならない宿命を背負っています。

そうした諸問題を克服しようと、ひたむきに努力を続けるアスリートの人生に寄り添うことを使命とした学術的エッセイ集が、ここに誕生。

本書は2部構成となっており、第I部では、競技種目を問わず、すべてのアスリートに共通するテーマ、第II部では、フィギュアスケートや新体操など、芸術的なスポーツに取り組むアスリートにとって普遍的なテーマを取り上げ、舌鋒鋭く論じられています。

「アスリートへの手紙」という形式で綴られた文章は全21信、なんと総ページ数488ページの大ボリュームです!ご本人も出版不況に異例の厚さの紙の本を出してくださった山と渓谷社様に感謝されていましたが、内容が素晴らしかったので個人的にもありがとうございます…と山と溪谷社様にお伝えしたいくらいです。

私が特に面白く読ませていただいたのは、第I部第5信の「緊張状態制圧戦略」。ここではよくアスリートが陥りがちな「緊張で自分の実力が思うように発揮できない」という問題を取り上げ、4つの対処法を提案されています。

その中の「競技会を『目的』ではなく『通過点』と捉える」「スポーツ以外のことも努力する」は、私のようなスポーツとは無縁の人間にも考え方を置き換えることができます。

競技会で結果を残すという短期的視野だけにとらわれず、常に長期的視野を持ち続けるかぎり、強迫観念から解放され、何度でも「やり直すことができる」と、町田さんは述べられています。

この「長期的視野を持ち続ける」ということは、スポーツに限らず、受験や仕事など、我々が生きていくなかでとても大事なことだと感じました。この思考を保ち続けることができれば、過去の失敗や挫折も、町田さんのように笑い飛ばすことができる境地になれるでしょう。

「スポーツ以外のことも努力する」も「スポーツ」を「勉強」や「仕事」と置き換えてみたらどうでしょう。「自分-〇〇≒0」という考えに陥ってしまったら、人生は著しく不安で苦しいものになってしまいますし、私も昔そういう気持ちになった経験があります。この本を読み若いアスリートに限らず、若者たちに、「〇〇のほかにも道はある」と人生を切り開いていっていただきたいものです。

また第21信では、「『感動を与える』という言葉の違和感」についてズバリと語ってくれています。私自身も「スポーツで感動を与える」というフレーズにモヤモヤしていた一人なので、元アスリートである町田さんが、アスリートの『感動を与える』という発言は、まるでプレゼントを贈る際に「感動を与える」と言っているに等しい、と言ってくれてスッキリしました。

また過去のナチス・ドイツの例を挙げ、「スポーツの力」がプロバガンダに利用されることも危惧されています。(ナチス・ドイツのスポーツのプロバガンダ利用の記録として、レニ・リーフェンシュタール監督の映画「民族の祭典」をご覧いただくとさらにわかりやすいと思います。)

アスリートはもちろんのこと、芸術を志す若きアーティスト、あるいはスポーツ以外の習い事に取り組む方々など、何かひとつの物事を極めようと努力するすべての人に届ける、知的探究の一書。ぜひご一読を!

編集:村尾竜哉(山と溪谷社)
写真:小橋城(帯)、和田八束(カバー)
デザイン:須賀稔
校正:戸羽一郎