異端 モンタノス派 初期キリスト教 封印された聖霊

著者:阿部重夫

装幀:間村俊一
DTP:ダイワコムズ

発行:平凡社
発行日:2022/3/23

判型:B6縦変型判(188×128mm)
頁数:320p
製版・印刷:スミ(本文)、特色2C(特茶+マットスミ、帯、扉)、マットスミ(表紙)プロセス4C(カバー、口絵)、マットPP加工(カバー)
用紙:嵩高書籍55クリームA、ニューVマット、OKミューズガリバー エクストラホワイトS、里紙 うす鼠、アラベール オータムリーブ、ヴァンヌーボV-FS スノーホワイト
製本:あじろ綴じ上製本

今回は阿部重夫さん著の「異端 モンタノス派」をご紹介いたします。

モンタノス派とは、二世紀半ばの小アジア、今のトルコ内陸の高原に生まれた新宗派でした。信者の一人に聖霊が憑いて、意味不明の口寄せをします。その聖霊に憑かれた信者たちを「預言者」と呼び、その異言を解読して、末世に備えて厳格な禁欲を課す教団となります。

このモンタノス派は、ペンテコステ派など現代の「カリスマ運動」の原点ともされています。この本では、その源流をたどり、「諸神融合」により変質していく教会の姿も描き出します。

巻末の佐藤優さんの「推薦の辞」でも述べられていますが、キリスト教は厳密には一神教ではなく、「父(ユダヤ教と共通の神、ヤーウェ)、子(イエス・キリスト)、聖霊」の三位一体の神を信じる宗教です。この「聖霊なる神」が何であるかはわかりにくく、既成の教会は、聖霊を組織内に閉じ込めることに腐心してきました。

しかし、キリスト教史では繰り返し、聖霊の自由な動きを重視するグループが現れ、そのようなグループは、大抵の場合「異端」として切り捨てられてきたのも事実です。

佐藤氏曰く、本書はモンタノス派についての学術的研究とは異なり、阿部重夫さんがモンタノス派の眼で歴史と世界を見直したものです。

その論考は、幸徳秋水の「基督抹殺論」、北一輝の「国体論及び純正社会主義」、ティッツァーノの絵画、アポローン対ディオニュソスを母権制と父権制にスライドさせたニーチェの「悲劇の誕生」、ドストエフスキーの「罪と罰」など、広範に及びます。

普遍的な価値観は幻想に過ぎないが、人間の努力を必要とせずとも千年王国が到来すると信じる「モンタノス派の眼」を持つことが、その幻想に対抗できる術であるようです。

現代を生きる我々も、やがてやってくる時、それがこの世の終わりなのか、千年王国の到来となるのかはわかりませんが、いずれにせよ阿部さんのように「モンタノス派の眼」を持つことが肝要でしょう。

「共同幻想に〈侵蝕)されて、〈他界〉が成り立たなく」なると、テロリストは誕生します。この本の裏テーマでもある、非クリスチャンのための「異端と教会」とはについて考えながら、ぜひご一読ください。