新間陽子写真集 さくらの杜 ある戦後の光景・靖国

著:新間陽子

ブックデザイン・編集進行:滝川淳(タキカワブックスパイクス)

発行:東京印書館
発行日:2023/4/15

判型:B5縦変型判(242×185mm)
頁数:112p
製版・印刷:スーパーブラック+特グレー、プロセス4C、スーパーブラック、カバー、表紙、本文、扉はグロスニス
用紙:ニューVマット、ヴァンヌーボVG スノーホワイト、ハンマートーンGA スノーホワイト、タント P-50
製本:無線綴じPUR製本

新間陽子氏は1948年静岡県生まれ。現代写真研究所第16期生、英伸三ゼミで写真家・英伸三氏に師事しています。2005年に、写真集『子供たちの視線』を発表。

新間氏は戦後の生まれであり、実際の戦禍に遭遇した経験は無いものの、幼い日に白衣の傷痍軍人を見た記憶や、学校の先生に引率され、原爆による白血病に苦しんだ少女と家族の映画を観たことが強く心に残っているそうです。戦争を否定し、平和を尊重する気持ちが戦後生まれの新間氏に根づいているのは、戦争の本質や平和の大切さを伝え続けてきた多くの人々のおかげであると氏は語ります。

この写真集には、新間氏が長年撮りためた靖国神社の光景が収められています。靖国神社には国家のために殉難した人の霊246万6千余柱が祀られ、毎年8月15日の終戦記念日には、日章旗の傍らに立つ軍服姿の男性、もんぺ姿の少女など戦争中と見紛うような光景が見られます。参拝に訪れる人々が列をなす中、大人だけでなく、たくさんの子どもたちもいることに氏は驚きを禁じ得ません。

お正月や桜の季節には多くの人が訪れ、七五三詣や成人参拝もあり、神事がとり行なわれることもあった。一方、軍事博物館として開館した遊就館があり、八月一五日には、戦争中のような光景が広がる。他の日にも戦争に関係した物や状況を目にし、一般的な神社とは違い、複雑な様相を呈していると思った。

—まえがきより

再び戦争が起こらないようにと願う新間氏は、この複雑な感情が渦巻く靖国神社で写真を撮ることを決意し、そこで目にした光景を撮り続けてきました。その道のりのなかで、戦争中の経験やシベリアに行ったことを語る男性や、「靖国で会おう」と言って戦死した兄に会うために、2か月に1回靖国神社を訪れているという女性との邂逅がありました。そして、戦争がもたらしたあまりに理不尽な事実に打ちのめされるたびに、戦争を二度と起こしてはいけないという思いを新たにするのです。

2019年からのコロナ禍、2022年に始まったロシアのウクライナへの侵攻など、世界情勢も激動していますが、ウクライナや紛争地域で今この瞬間も失われている尊い命に思いを馳せつつこの写真集をご覧いただき、私たちが手にしている平和の意味について見つめなおすきっかけにしていただければと思います。

(書影・文 東京印書館 大熊美幸)

担当プリンティングディレクターより

髙栁 昇

靖国神社にはいろいろな思いを持った方がいらっしゃいますが、今現在の靖国の雰囲気をお感じいただけるように、中間の濃度域を豊かにし階調を出して明るく、暗部のディテールも出して製版いたしました。新間さんの写真に内在する平和のメッセージが感じられたので、世間一般に通底している暗いイメージや重い雰囲気を、この印刷では極力おさえることを意識しました。

1点1点、細部にわたってディレクトしましたが、例えば賽銭箱の木目や宮司の着物の織目のディテールを出したり、境内にいる白鳩にコントラストをつける、黒い服の集団には一人ひとりが浮き上がるように肩の光を強調するなどしています。ぜひ写真集をご覧になってお確かめください。

統括プリンティングディレクション:髙柳昇(東京印書館)
製版ディレクション:山口雅彦(東京印書館)
印刷ディレクション:高橋満弘(東京印書館)
印刷進行:三浦清美(東京印書館)

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発行日: 2023/4/15-判型:B5縦変型判 242×185mm-頁数:112 ページ-印刷:ダブルトーンオフセット 2,200円(税込)