「特薦いいビル 国立京都国際会館」 1950年代〜70年代の高度経済成長期に建てられたビルの建築物としての魅力を追求し発信するBMC(ビルマニアカフェ)が不定期に発行するZINE「月刊ビル」。本書はBMCの活動10周年を記念し、月刊ビルの別冊として企画・刊行されました。

昭和41年の開館から50年以上が経つ京都国際会館。代表建築家の大谷幸雄氏が手がけた斬新なデザインはモダニズム建築の傑作と呼ばれて名高く、今尚訪れる人々に強いインパクトを与え続けています。

本書はこの京都国際会館の魅力が写真家西岡潔氏による臨場感溢れる美しい写真と、BMCによる独特の視点で余すところなく掘り下げられています。

 ”日本初の国際会議場にして、モダニズム建築の傑作。この不思議な逆台形と台形を組み合わせた複雑な構造体が、高度経済成長期の過剰な情熱によって完成した世紀の大建築であることは、あまり知られていない。” 〜大福書林ホームページより引用

製版・印刷のポイント(東京印書館製版ディレクター・片山雅之談)

本書では圧倒的なスケールの存在感を放つ京都国際会館のメインロビーや会議空間、外観写真とともに、手すりの断面やドアの取っ手、照明から家具の素材に至るまでのディテールがくまなく丁寧に紹介されています。京都国際会館の建築物としてのダイナミックな迫力を印刷で損なうことなく、キャプションで解説されているディテールの一点一点をわかりやすく見せるというバランスが重要になりました。

具体的には、立体感を出しつつも暗部の階調を出す(明るくする)という課題になります。ただし、写真によっては暗部調子の加減次第でコントラストが失われ、平坦で印象に残りにくい写真になってしまうリスクが伴います。

今回は説明的な要素に比重を置きつつも、ドラマチックな実体感や被写体のリアルな質感はできるだけキープするという点がポイントになりました。

もう一つはモアレへの対処に注意しています。規則的なパターンが多く見られる絨毯や内装の模様に高確率でモアレが発生しましたが、これを軽減するための”ぼかし”の使用を最低限にとどめています。

これは、本書の主題が建築というのが理由の一つです。建築物は構造や材質、インテリアに至るまですべて建築家が意図的に選択したもので構成されています。従いまして、基本的には撮影された物の形状や色を変えるのは建築家の意図を捻じ曲げる事となり、不適切と考えます。

さらに、撮影画像については絞り値を大きく取り、被写界深度を上げていると記憶しています。これはカメラマンが作家性を強く出すことより、事実を正確に出すことを優先して撮影したと判断できます。上記の理由から、よほどモアレにより本来の質感や形状、色調が破壊されていない限り、ソフトウェアでの処理は不自然にならないギリギリのところに留めています。

本を開くたびに、京都国際会館の奥深い魅力に一層引き込まれる一冊。建築愛好家の方のみならず、じっくりと楽しんで頂けること請け合いです。